第1章

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 レイコをレイプした、あるはしようとしたのもペックではなく、小澤なのかもしれない。小澤はペックにその場面を見られたので、口封じのために殺そうと思ったんじゃないのか。  当時のことを思い返してみると、そんなストーリーが浮かびあがってくる。小澤のとったすべての行動に合点がいく。  そうすると、おれはまんまと小澤にのせられたというワケか。  小澤に対して無性に腹がたってくる。今すぐ殴りつけたいという衝動を抑えきれなくなる。それとともに、ペックに対して申し訳ないという気持ちがわき上がってくる。ペックのあの素朴な、子供のような澄んだ目がおれを見つめてくる。本当にすまないことをした。  だが、今さらもうどうしようもない。時計の針を戻すことはできない。どうしようもないんだ。      *  あれから八年が過ぎた。  あっという間だ。表面的には、平々凡々とした以前と変わらない日々だったのかもしれない。だが、いつも心の奥底に重く沈み込んだまま動かない感情があった。  おれは中堅の出版社に入社し、週刊誌の編集部で働いている。社会の問題提起をするような記事もあるが、ウリは芸能人のゴシップやセクシーなグラビアなどだ。小説も載っている。だが、文学性は低く、おれが読みたいようなものじゃない。おれ自身、もう何年も小説を書いていない。  小澤とは三年前に偶然、東京のオフィス街で会った。国際金融ではないが、銀行でそれなりの仕事をしているらしい。でっぷりと太って、学生時代よりさらにいやな顔をしている。  レイコとも二、三度、メールでやりとりをした。少しずつ署名入りの写真も雑誌などに載るようになっている。もちろん、インドでのあの出来事についてはお互い何も言わない。  宮田とは連絡がとれない。だが、彼のことだからきっと着実に自分のやりたい道を一歩一歩進んでいることだろう。発展途上国で井戸を掘り、村の子供たちと笑顔で水をかけあって喜んでいる。そんな姿が目に浮かぶ。  それぞれ三十歳という節目の年齢を迎え、みんな過去をひきずりながらも、それなりに自分の人生を歩んでいるのだろう。  そんなある日、おれのもとにある人物が訪ねてきた。 「嶋村さん、お久しぶりです」  ペックだった。  何が起きたのか理解できず、おれの頭は混乱する。会社の受付の前で、おれはただペックのことを茫然と見つめる。
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