第1章

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「でも、わたしはあきらめなかった。体力が回復すると、自分でいろいろ調べました。すると、小澤さんは宿の主人にかなりの大金を払って口止めをしていたことがわかりました。そうなると、わたしが宿からいなくなったことなど誰も口にしなくなる。ですが、わたしはあきらめなかった。そのうち、協力してくれる人たちも出てきました。特に日本から旅行にきた学生さんたちは親身になってわたしの話を聞いてくれました。実際にインターネットで書き込みをしたり、あれこれ動いてくれて……。それで、ようやく宮田さんと連絡がとれたんです」 「宮田はそのとき、なにをしてたの?」 「宮田さんはネパールでボランティア活動をしてましたが、すぐにわたしに会いにきてくれました」  やっぱりボランティア活動をしていたのか。宮田らしいな。おれは少し嬉しくなる。宮田のあの実直さが懐かしくなってくる。 「あなたたちは本当にヒドイことをしました」  ペックはそう言っておれの甘い感情を打ち砕く。 「あれは小澤が……」 「小澤さんだけじゃないでしょ。わたしはあなたたちに殺されかけた。あなたたちにです。あなたも小澤さんの仲間でしょう」 「小澤がレイコをレイプしていたなんて知らなかったんだ。おれと宮田は小澤に騙されたんだよ」おれは必死に弁明する。 「でも、あなたは逃げた。少なくても逃げるべきではなかった」 「仕方ないさ。知らなかったんだから……」  おれは同じ言い訳を繰り返すしかない。  店のおばさんがテレビのチャンネルを変えた。報道系の番組だ。そのとき、なぜか、おれはテレビが気になってしかたなくなった。特に知りたいニュースがあったわけじゃない。だが、テレビの画面と音声に自然と意識がむいた。無意識に何かのワードを聞き取ったのか。それとも第六感が働いたのか。 「十二年前、インドのベナレスである事件が起きました。それは、日本人旅行者の手によって、インド人の青年が襲われ、ガンジス川に流されるという大変痛ましいもの。被害者のペックさんの命は助かったものの、失明されてしまいました。ですが、ペックさんはくじけることなく、自ら調査を続け、ようやく容疑者である銀行員の小澤貴男を探し出し、今回の逮捕劇に繋がりました」  誠実そうな女性アナウンサーが原稿を読み上げる。画面にはペックの顔写真と小澤の顔写真が映し出される。
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