第1章

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「なかなかできることではありません。ペックさんの信念と勇気に頭が下がります」  初老の番組のキャスターが言う 「こんな卑劣なことをするなんて同じ日本人として恥ずかしいですね。特に本来、自分の視野を広げるために行くべきはずの外国で日本の若者がこんなことをするなんて……」と大学で教えているという中年の女性コメンテーターが憤慨して言う。 「本当にそうですね。なお、犯行に加わったのは三人だと思われますが、ほかの二人はまだ捕まっていません。一刻も早く犯人が逮捕され、事件の真相が究明されることを願うばかりです」と初老のキャスターがコメントし、話題は次にものに変わる。  テレビの音声にじっと耳を澄ませていたペックが口を開く。 「宮田さんは自首するそうです。嶋村さん、あなたはどうしますか?」  おれは何も答えることができない。  ただ茫然と座っているおれのことを、ペックは白濁した目でじっと見つめ、そして言う。 「また逃げますか?」(了)
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