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「ほんとだよね。人生なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね。どうせ死ぬならやりたいことやらなきゃ意味がない」と小澤は言う。
小さい頃から親の期待に応えてきたであろう小澤の中で、何かが変わろうとしているように思えた。学歴などのブランドで自分を守り、どこか堅苦しかった小澤の中から、生の人間性が垣間見えてきた。それは、とても良いことのようにおれには思えた。おれだけでなく、レイコも宮田も同じことを感じていただろう。
その後、おれたちは人の肉体がこの世から消えていく場面を見ながら、いろいろな話をした。
今となってはどんな話だったか、詳しいことまでは覚えていない。だが、等身大の自分とくらべて分不相応なくらい夢や希望に満ちたものだったに違いない。
たいていの夢は叶わない。でも、叶うものもある。叶うことだけを信じて、みんなは話していたように思う。
おれたちの話を、ペックは静かな微笑みを浮かべ、黙って聞いていた。
*
その後もおれたちはペナレスで過ごした。
ボートに乗ってガンジス川から日の出を見たり、旧市街地を当てもなく歩き回ったりした。見るものすべてが刺激に満ちていた。若く柔軟な心に突き刺さった。
だが、いくらベナレスでも、ずっといると慣れてしまう。旅することそのものが新鮮な時期は過ぎ、旅が日常に近づいていった。最初の頃はいつも四人一緒にいたが、次第にお互いの悪いところも見えてきて、自然と行動もバラバラになってくる。
レイコはペックに写真撮影で絵になる場所をあちこち案内してもらっているようだった。小澤は部屋で金融関係の本を読んでいることが多くなった。宮田は貧しい人たちやホームレスの人たちの施設を見学に行き、手伝いもしているようだった。
おれはなんとく町をぶらついたりするだけで、時間を持て余すようになっていた。旅に倦み始めていた。その一方、帰国のときも近づいていた。まだ何かが足りない。出会えてないこと、見ていないことがたくさんあるはずだという気持ちを押し込めた。少しは視野も広がったはずだし、まあ、いい旅だったんじゃないかと自分を納得させようとしていた。
そんなときだ。事件が起きたのは……。
ホテルのドミトリーのベッドに寝転んでいると、
「大変だ! すぐに来てくれ!」小澤が慌てておれと宮田を呼びに来た。
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