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「復讐する」小澤は小さな声で言う。
「復讐?」
「ああ、レイコの無念を晴らすため、ペックに復讐する」
小澤は今度はきっぱりと言い放つ。
「まだ詳細はわかっていない。本当にペックはやったのかな。実際、きみもペックがレイコをレイプしているところ見たわけじゃないだろう」宮田が言う。
「それはそうだが、状況から見てペックしか考えられないだろう」
「でも、確実ではない」宮田は食い下がる。
「ぼくを信じないのか?」小澤は気色ばむ。
「そういうわけじゃないけど……」宮田は小澤の勢いに押される。
「そうだ、こうしよう。ペックをどこかに呼び出そう。やつはきっと本当のことは言わないだろう。だが、ぼくたちが毅然とした態度をとることで、日本人にヘタに悪いことをすると大変だということをペックは理解するはずだ。それが、この後このホテルに泊まるたくさんの日本人バックパッカーのためにもなる」
「具体的にはどうやるんだ?」とおれは小澤に尋ねる。
「ガンジス川にしよう。ぼくは現場で待っている。ぼくがいることがわかるとペックは来ないから、嶋村くんと宮田くんが、ペックを連れてきてくれ。夜のガンジス川の散歩に付き合ってほしいとかなんとか言って……」
「ペックにいったい何をしようというんだ?」宮田が小澤を問いつめる。
「そんなに深刻に考えるなよ。別にペックを殺すわけじゃない。ちょっと恐怖を味わってもらうだけだ」
「ペックを脅かすということか?」おれは小澤に聞く。
「ああ、それだけだ。だが、何もやらないよりはいいだろう。このまま帰国したら、この旅の思い出がすべて台無しになる。何年もずっと後悔し続けることになるぞ。それでもいいのか?」
*
翌日、おれと宮田は小澤の計画通りに動いた。
夜のガンジス川を散歩したい。だが、土地勘のない外国人だと夜は何かと危険だからついてきてほしい、と言ってペックに案内を頼んだのだ。
ペックは少し迷ったようだったが、わかりました、といって了承してくれた。
夜、仕事が一段落したペックは、約束どおりに来てくれた。
おれたちは町を通り抜け、カンジス川におりていく。あっちに行こうか、とおれはペックを誘導するように火葬場に向けて歩いていく。
だんだんと人の姿がいなくなる。灯も少なくなっていく。
「実はお話ししたいことがあります。お二人に散歩に誘っていただいて、絶好のチャンスだと思いました」
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