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回りに人がいなくなると、待っていたかのようにペックが話し始める
「なに?」おれはペックに尋ねる。
「実は小澤さんのことです。小澤さんがレイコさんにヒドイことを……」
ペックが話し終わる前に、火葬場の近くに隠れていた小澤が姿を見せる。
驚いた顔をするペック。小猿のような純朴な目が恐怖におびえる。
小澤は何も言わず、いきなり小柄なペックを引きずるようにして、そのままガンジス川に突き落とす。
「おい、やめろ!」おれはとめに入る。
「まず話を聞くんだろう」宮田が叫ぶようにして言う。
小澤はおれたちの話に耳を貸さない。ガンジス川から上がってこようとするペックをまた突き落とす。
おれと宮田は小澤を制止しようとするが、興奮している小澤はものすごい力でおれたちを振り払い、ペックの身体を激しく揺さぶり続ける。小澤の顔はキツネにとり憑かれたように目がつり上がり、狂気めいている。
おれと宮田は小澤の動きに圧倒され、行動をためらい、一瞬、隙ができてしまった。
その瞬間、小澤はペックの頭を石段の角に叩きつける。ペックはぐったりとして動かなくなった。
「なんてことを! 誰か呼んでくる」宮田が叫び、走りかけたときに小澤が言う。
「警察沙汰になったら面倒だそ。もし逮捕され、殺人罪に問われることになったら、何十年もインドの劣悪な刑務所の中にいることになる。いや、死刑になることだって十分考えられる。お前たちも共犯だからな」
「いや、違うだろ。殺したのはきみだ」おれは小澤に言う。
「インドの警察や裁判所がどこまで信用できるのかな。きみたちはペックとホテルから出て行く姿を見られているだろう。インドのことだから、ろくに調べもせず、三人とも同罪とみなされることもありえるんじゃないかな」
小澤は不気味な笑顔を浮かべる。
確かにそうかもしれない。日本の警察とは違い、あまり厳密な捜査はなされないかもしれない。特に何のコネもない、おれたち外国人がらみの事件では……。
「おい、見ろよ。ちょうど、こんなところに死者を包む布があるぞ。誰かが忘れていったんだ。さあ、手伝ってくれ」
小澤は薄汚れた白い布を拾い上げる。
「流すのか? すぐにバレるに決まっている」おれの声は恐怖で震える。
「この布に包めば、もう誰だかわからない。たくさんある死体の一つに過ぎなくなる。さあ、早く!」
小澤の声が一層緊迫してくる。
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