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青山はあれ以来『ペンギンベーカリー』に来ていない。電話もメールも繋がらない。
嫌われちゃったのかな。美咲は悲しみと寂しさに堪えながらそう考える。
二百万円は、美咲の口座に振り込まれていた。振込みをした人の名前に見覚えはなかったが、きっと青山に違いないと美咲は思った。
「どうしようもない理由があったのよ。誰にでもあるじゃない。人に言えないことって……」
ハルカが美咲を慰める。
「うん」
美咲はふっと自分の手を見る。ティファニーの指輪はそこにはない。ちょっと寂しい気持ちになる。
でも、でもいいんだ。指輪はパンを作るときには必要ない。邪魔になる。だから、仕事を始めれば、寂しさは薄れていく。
どうしようもない理由があったのよ。
美咲はハルカの言葉を心の中でリフレインしながら、コックコートに着替える。
さあ、今日もお客様を幸せにするパンを作るぞ。美咲は心の中でそう言って、パン生地を力強くこね始める。
藤野美咲は今日もパンを作る。(了)
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