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「駅前で人通りも多いし、すごくいいと思います」と美咲はガラス張りの空き店舗を外から見ながら言う。
「良かった。美咲さんにそう言っていただき、安心しました」
「あっ、でも、まだ……」
「わかっています。共同経営の件はまだお返事をいただかなくても大丈夫です」
「すいません。お待たせしちゃって……」
「いえ、こちらこそ。自分勝手なお願いをしてしまって」
「何をおっしゃっているんですか。わたしみたいな経験の浅い者に声をかけていただいて、とても光栄です。ありがとうございます」
「あっ、いや、ぼくのほうこそ、美咲さんにどうやってお礼していいかわからないくらい感謝しています。ぼくは、あなたに会うまでずっと過去を引きずって生きてきた。でも、美咲のお陰で未来を見つめることができるようになった。あなたはぼくの人生を変えてくれたんです」
「そんな大げさな」美咲は顔を赤らめた。
「そうだ! もし、もしもですが、これから一緒にティファニーに行きませんか。指輪を買いましょう。せめてものお礼です」
「いえ、そんな」美咲を恐縮して答える。「そうじゃないと、ぼくの気持ちが収まらない。じゃあ、こうしましょう。無事お店を開くことができたら、ティファニーの指輪を受け取ってください。それだけは約束してください」
美咲は戸惑った顔をした。だが、心の中では飛び跳ねるほど嬉しかった。その場で青山には伝えなかったが、美咲の気持ちは固まっていた。共同経営者になることも、そして、指輪を受けることも。
*
美咲は、ハルカに店を辞める予定であることを告げる。
「へえ、共同経営者か。すごいねえ」
ハルカは自分のことのように喜んでくれた。
「で、どうなの?」といたずらっぽく微笑みかけてくる。
「どうって?」
「決まってるじゃない。青山さんとの結婚よ」
「なに言ってんの? それとこれは別よ」
「でも、ティファニーの指輪をプレゼントしてくれるんでしょ。それの意味って一つしかないでしょう」
「な、なに言ってんの。それは、そういう意味じゃなくて……」
そのとき美咲の携帯電話が鳴った。
「美咲さん。すみません。お店の開店日が少し伸びそうです」
青山は真っ先に美咲に謝った。
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