雨の中で

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 僕は学校でいじめを受けていた。  いじめと言っても、そこまでひどいものではない。  友達グループの中で弱い立場に置かれている、僕の話すことにみんなが茶々を入れてくる、僕が失敗をするとみんなが笑う、そのような他愛のないものだ。  のちの同窓会などで聞いた話では、あれは僕がいじられキャラ、愛されキャラだったから起きたものだと友人が説明をしてくれたが、この当時の僕にとってはそれは可愛がりだとも親愛の証だとも感じられない。とてもつらくて、心を痛めつけられる切実な問題であった。  だからだろう。  僕は彼女に強い憧れを抱えていた。  雨だろうと気にせずに、毅然と歩く彼女。  あの子の姿が僕を元気づけていることは確かだった。  だからだろう。  僕は穏やかな日々を愛していたはずなのに、人から嫌われることを恐れて、人に好かれるような周囲に溶け込む生き方を目指していたと思うのに。  僕はその日、いつもとは明確に違う行いをしてしまったのだ。  校舎の裏で、誰かがいじめられていた。  それは僕が受けていたような可愛がりとは違う。明らかな暴力、明らかな虐げであった。  殴られていた。髪の毛を引っ張られ、何度も殴られていたのだ。  殴られているのは下級生だ。  そして下級生を取り囲み殴っている彼らは、上級生グループでもたちの悪いと評判の男子学生たちだった。 「やめなよ」  僕は彼らに制止の声を掛けた。  僕の周りにいた友人が、僕を止めようと必死に声を出していたが、僕はそれを聞かなかった。  僕は彼女のように、なりたかった。  雨でも気にせず歩けるような、そういう人になりなかった。   「なんだ、てめぇは」  上級生の一人が、僕に近付いてきた。  僕は僕よりもずっと背の高い彼に負けないよう、怯まずに睨み続けた。  上級生は早口で何かをまくしたてる。緊張で僕はその言葉を聞き取れなかったけど、だけど、とても恐ろしいことをまくしたてているのだけは、はっきりと分かった。  手が震えてしまう。  それでも、僕は負けずに睨み続けた。  やがて校舎から先生がやってきた。どうやら僕の友人が慌てて職員室へと駆けこんで呼びつけたらしい。  上級生は露骨な舌打ちをした。  上級生グループがその場を去っていく。  僕はその場で、腰を抜かすみたいに、膝を折り曲げた。
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