5、たった一人の弟

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5、たった一人の弟

電報は良い知らせだった。 だが、突拍子もない。 「ケッコンシマス アスユキマス」 キクが死んでますます、昭治は10年上の芳枝を大切に扱った。芳枝もマキコとは性が合わないが、昭治のことは可愛かった。たった一人の弟として頼りにしているところもある。それにしても結婚!いや恋人のいることすら芳枝には寝耳に水だった。 それを話すとキヌは動じなかった。 「良かったじゃないの、昭治さんが身を固めればあんたも肩の荷が有りるってもんだわ、お祝いなんだから明日は御馳走作りましょう」 翌日は、朝から白いご飯をたっぷり炊いた。ニンジン、油あげ、干瓢を甘辛く煮て、混ぜご飯を作る。仕上げに庭で摘んだエンドウ豆を散らした。茹でたエンドウ豆はヒスイのように美しく、食卓を晴々とさせた。七里ヶ浜の顔見知りの漁師に頼み、鯛も手に入れた。大きくはなかったがキヌが上手に塩焼きに上手に仕上げた。お頭付きの鯛は藍の大皿に盛られた。
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