5、たった一人の弟

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芳枝は ありのままを伝えることにした。 つまり まずはキヌからのものを 正式なお祝いとして皆の前で渡す。 後からこっそり 自分の用意したものを渡す。 キヌの祝儀袋を受け取り 昭治と信子は並んで頭を下げた。 大正7年生まれの東京女子大出身。 流石に硬い育ちらしく 信子は短い指を揃え 長々と丁寧に頭を下げた。 実家は中野。 母親を早くに亡くし 男手で育てられたと言う。 その父親は大学の先生だそうだ。 家は良いのだろう。 子供ほどの身長なのに 厚みのあるコロっとした体つき 丸い顔、丸い目は32という年齢より ずっと長閑だった。 深々と頭を下げているので ウェーブを当てた強そうな黒髪と うなじが見えた。 首は短く、狭いなで肩と境界線がない。 健康そうな肉が付いていた。 S家の女とは全く異なる遺伝子の女だ。 「姉さん、実はお願いがあるんです」 再びキヌが席を外すとすぐ お膳の祝儀袋を横目に 昭治が、真顔で切り出した。
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