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仲見世や観音裏の小間物屋には少女の目を引くものばかり並んでいた。芳枝が今欲しいのはカメオのブローチだ。カメオと言っても、ホンモノの貝の彫刻ではなく色とりどりの陶器製のものもあったが、やはりイタリー製の本物が素敵だった。ベルベットのリボン飾りがついている。舶来屋のレースのショールやビーズのハンドバックも素敵だ…洋服など着る機会のない芳枝だが、姐さん芸者たちが休みの日にワンピースやスカートに合わせているのを見たことがある。(孔雀堂に飾ってある模造真珠の小さな葡萄のブローチ、あれを帯止めに使ってる姐さんが居たわ、あれは、いつも素通りできずに手に取ってしまう。いつか買ってしまいそうだ)おしゃべりして街を行けばお腹もすく。「梅園」で蜜豆、「アンジェラス」でアイスクリーム、松屋まで歩いて食堂でフルーツパフェーもいい…とにかく何か食べるに決まっている。わずかな小遣いなどすぐ消えてしまう。(そんなことできないわ、お母さんがお金待ってるもの)そう考えると、いつもなんやかや理由をつけて誘いを断ってしまう。
芸者見習いの少女たちは皆、前借(まえしゃく)と言って借金のカタに芸者屋(置き屋)に売られてきた身の上である。まだ一本(一人前)の芸者ではないものの「半玉(はんぎょく)」という肩書で既に13,4歳から座敷に上がっている。「半玉」とは「玉代」(お座敷出演料)が半額であるという意味だ。芸はまだ披露できないが、姐さんの荷物持ちと客への「お酌」が仕事である。だから「半玉」のことを「お酌」とも呼んだ。半玉としてお座敷に出ることは、お座敷のしきたりや話術を覚えていく一つの修行である。「半玉」の稼ぎは全て置き屋が管理して少女たちは「前借」を返しつつその他生活費等も払い、自分が好きに使える小遣いを置き屋からもらう。芳枝は小遣いすら、できるだけ貯めて、休みの日にキクのもとへ帰る折々に持っていった。キクの喜ぶ顔が見たいのである。
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