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ところで、「半玉」のお座敷勤めの最も肝心なことは、実は「商品の展示会」であるということだ。座敷遊びをする男たちにとって、まだ旦那の付いていない美しく着飾った少女たちは、ずばり、商品なのである。
目を付けた「半玉」がいたら、時期を見て置屋と交渉し、成立すれば少女を「水揚げ」させて一人前の芸者としてデビューさせるべく経済的バックアアップをする。旦那の財力と半玉の力量によって、どんなに豪華な支度でお披露目できるのかも決まる。そしてパトロンとして、その半玉を自由にできるのだった。人身売買である。
このように、芸者のキャリアスタートとしても、女として男を知るスタートとしても「水揚げ」時の旦那は、とても重要な存在だった。「水揚げ」してはすぐに飽きて捨ててしまう「初物食い」と呼ばれる男達に引っかからないよう、置き屋は目を光らせる。
ある日、踊りの稽古が終って検番(芸者の事務所、今でいう芸能プロダクション)から戻った芳枝は、水揚げの話が自分に来ていることを偶然に聴いてしまった。置き屋の女将(半玉や芸者が「おかあさん」と呼び習わしている)とタツとが話しているのが、襖越しに聞こえて来たのだ。どうやら芳枝の「水揚げ」を申し込んできたのは、内科医院を開業している津路という医者で、芳枝も良く知っている人物だった。
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