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        「美緒先輩は、夏がキライなの?」 「っ、何か言った?」 隣の少々暑苦しい井ノ上くんとの出会いを記憶から手繰り寄せていたら、どうやらぼうっとしていたらしい。夏バテか、大丈夫なのかと私の顔を覗き込む井ノ上くんの表情が曇っていて。 大丈夫だよと返すと、井ノ上くんは嫌がるふうでもなく、もう一度訊いてくれる。 「美緒先輩、夏キライ?」 「嫌い……ではないよ」 嘘をついた。 「そう? いっつも大変そうだったからさ。大丈夫かなって、心配をこれでもしてるんだ」 嘘……じゃ、ないところもある。 いつからか、呪うことでしか季節を越せなかったから。 「羨ましいんだろうね」 「羨ましい?」 夏を大好きな、強くて太陽の子みたいな井ノ上くんには、そりゃあクエスチョンマークが頭上に浮かびもするだろう。 だから私は、少しだけ素直に呪う理由を口にしてみる。 「ただ面倒なだけ。色々用心して我慢しなきゃいけないから。だって、私がいて突然倒れたり肌が大変なことになっちゃったら、周りに迷惑だし気を使わせちゃう。こんな海が近いとこに住んでるのよっ。私だって照りつける太陽の下、夏の海でスイカ割りとかバーベキューとか、夏フェス行くとかしてみたかったけどね」 私は、自身の面倒な体質のことをぶっちゃける。年齢分の鬱憤が溜まっていて、少し口にすればそれは止まってくれない。 井ノ上くんは、ちょっとお馬鹿だけどいい人だった。私の愚痴を嫌がりもせず全て話させてくれ、たまに思った疑問を投げ掛けてくれる。 そうして、井ノ上くんは私の体質を家族の次によく知る人間になってしまった。二ヶ月前には、お互いの存在も知らなかった間柄なのにね。なんだか可笑しくて笑ってしまった。 「美緒先輩。明日、早起きできる?」 「出来るけど……?」
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