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  そんなこんなで、私は何故か、朝四時半の海水浴場にいる。住んでいる街にあったのが幸いだ。でなければ昨日の最終電車で出向かわなければいけないし、そんなことお母さんもお父さんも許すはずがない。 昨日の、井ノ上くんへの愚痴大会からの早朝起床の可否を問われ、可だと頷いたところ、翌日の約束を取り付けられた。 まだ空は徐々に明けている最中で、道路は配達関係の車両がちらほら走る程度。 そんな中、待ち合わせ場所に現れた井ノ上くんは小玉スイカを一玉小脇に抱えていて、来るやいなや当然の如くスイカ割りが始まる。スイカをレジャーシートの上に置き、私の背後に回り込み目隠しの手拭いを巻く。棒を持たされ、井ノ上くんの導きを頼りに、流されるままゲームに興じてしまった。 だって、楽しかったのだ。そしてスイカは甘くて美味しかった。 昨日、平気な日差しの程度を問われた。この井ノ上くんのお誘いは、私の鬱憤を昇華させる為にしてくれたことだと容易に理解出来る。 塩素は駄目でも、海水なら平気。波打ち際で裸足になった私に井ノ上くんも付き合ってくれて共にはしゃぐ。心ゆくまで楽しんだあと、道路に上がる階段の途中に座るよう促され、持参してくれていたペットボトルに入ったお水で足を洗おうとしてれる。 「井ノ上くんっ」 「海水平気でも、すぐ洗うほうが負担ないっしょ」 有無を言わさぬ手つきで砂を洗い流された。タオルで拭かれる場面になり、ようやく意見が通った私は、羞恥心が最高潮に達し、井ノ上くんから顔を背けて自分で水分を拭いとった。 「さすがに夏フェスは無理だけど」 オレ音痴なんだよね、とリサイタルでも開催しようとしていたのか照れながら、お弁当箱を井ノ上くんはリュックから取り出す。 「炭も上手くおこせないんだ」 バーベキューの代わりだと、お弁当箱の中にはぎゅうぎゅうに詰まった牛カルビがあって。因みにご飯は入っていなかった。牛カルビオンリー。 朝から女子高生にたっぷりの肉なんてどうかとも思ったけど、楽しくなってスイカ腹なんて何処吹く風、二人で平らげてしまった。
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