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「楽しんでほしかった。喜んでほしかった。迷惑じゃなかった?」
「そんなことないよ。逆に気を使わせちゃったなって。……昨日はごめんね」
「気なんか使ってないって~。でも、美緒先輩には、オレ、気遣いはしたいんだ。そのふたつって、同じようだけど、違うと思わない? 気を使うって、なんかヤダよね。気遣いって、大事な人にしか出来ない優しいやつだとオレ思うんだ~。あんま上手くいかないけど」
「そんなこと、ないよ」
「夏が好きなオレと、苦手な美緒先輩。――けどさ、こうやって、夏以外のことでも全然違うオレたちが、お互いの重なるとこを見つけて、得意なほうに任せて一緒に楽しんだりさ、できるのって、いいなって」
「うん」
「美緒先輩が夏ダメで、良かったとこもあるよ?」
「え?」
「紫外線にあんまあたってないから白い首らへんとか超キレイ。サラッサラで艶のある髪の毛とかも~。緑の黒髪って意味、オレは美緒先輩で知ったんだ」
脳ミソに皺がひとつ増えたなんて、眠そうなのに得意げな顔が、ゆっくりと、私の肩にもたれ掛かる。どうやら限界だったみたいだ。当然か。あんなにたくさん準備してくれた。
眠る井ノ上くんを起こさないように、彼の肩にタオルを掛ける。水泳は肩が大事だとテレビで言っていたしね。
ちょっとお馬鹿な井ノ上くんが、なんだか今日は色々聡くて驚いた。難しいことを考えて考えて、言葉にするのは大変なこと。
私の面倒な部分を嫌がらず、一緒に楽しめることを探してくれてありがとう。
ただの防衛策でしかなかったことが、井ノ上くんのおかげで、癒しの方法という素敵な名前に変わった。
夏が嫌いな私、ではなくて、夏が苦手な私、と言ってくれる井ノ上くんの優しさは素敵です。
毎日毎日、柴犬みたいな可愛らしい井ノ上くんを見るのも最高だ。
井ノ上くんといるのは楽しいよ。井ノ上くんもそう思ってくれることが、私はとても嬉しい。
初めて見た夏の日の出なんて、井ノ上くんと一緒だったこと含め、こんなの一生忘れられない。
「私も、同じだったよ」
今日、井ノ上くんが言ってくれたことは、私もとてもそう感じていて。
違うところの多い私たちが、こうして歩み寄りながら、お互いの重なることの出来る部分を探し、まじりあえること、それが心地いいなんて。
それが井ノ上くんとだなんて、とても幸せなこと。
――END――
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