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こんな日に限って先生はやたら傍線を引かせる。
(早く終わらないかな…)
それにしても、香取くんはそんなに面白くない野々村先生の授業でも真面目に聞いている。
私なんかすぐ眠くなっちゃうのに。
私は教科書を見るふりをして香取くんの横顔を覗き見た。
教科書の文字を追う香取くんの瞳は真剣そのもの。
(やっぱこの人、綺麗…)
少し俯いた黒い瞳にちょっとどきりとする。
思わず釘付けになるような、黒水晶みたいな透き通る瞳…
ぐ、ぐぅ~~~…
(あっ!やば!)
この場にそぐわない間抜けな音を立てたのは、私のおなか…
どうぞ誰にも聞こえていませんように、なんて祈りもむなしく…
直ぐに香取くんが教科書から視線を上げ、私を見た。
ばちりと眼が合う。
すると…
「…ふっ」
(……!)
香取くんは可笑しさが堪えきれなかったように一瞬くすっと笑うと、またそのまま教科書に視線を戻した。
(かっ…香取くんに笑われた…!)
顔から火が出るほど恥ずかしいとはまさにこれ。頬がぐんぐん熱を持つ。
と同時に、
(香取くんが笑うの始めて見た…!)
という特別感にどきどきした。
さらさらの前髪から覗く細めたられた瞳。
口角を上げてふくらみを帯びる頬。
(意外と可愛い笑顔するんだ…)
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