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なんで…?なんでやっつけちゃわないの…?」
「え?」
「香取くんならあんな奴ら、やっつけれちゃうでしょう!」
私はなにか口惜しくて唇を噛んだ。
そんな私に香取くんは溜め息をひとつ吐き、言った。
「剣道ってのはそういうことに使うもんじゃない」
香取くんはまだ手にしていた長い枝を丁寧な所作で地面に置く。
それから少し離れたところに落ちていたリュックを拾い上げた。
「…痛っ」
顔をしかめて左肩を庇う。
「やっぱり怪我してるんじゃない!」
「…大丈夫だから」
「警察に通報しようよ。それ傷害罪だよ!」
「頼むから大事にしないでくれ」
「だって…」
「中学の同級生なんだ。剣道部の。
元々はちゃんと剣の道を理解して尊ぶ人間だった。
そこのところを汲んで欲しい」
「……
…うん」
香取くんがそう言うんじゃ、私には勝手なことは出来ない。
右肩に香取くんはリュックを引っ掛けると土手の方へと引き上げていく。
その後ろ姿はいつも綺麗な姿勢の香取くんには似つかわしくなくすごくアンバランスで、相当痛いんだろうというのが伝わってくる。
「ね、荷物持ってってあげる!」
「は?」
「私自転車で来てるし。ね?」
「いいよ」
「なんで?遠慮しなくていいよ?うちまで送るし」
「だからいいって」
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