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チラッとスーツ野郎の横顔を見る。心なしかさっきより顔色が悪いような気がする。
「……そこ、クーラーボックスあるから、座ったらどう?」
「大丈夫です」
全然、大丈夫そうではない。
俺は船のスピードを若干緩めた。今日は最短距離で到着できるポイントで網を引こう。そこなら後三十分で着けるだろうし……。
一時間半しかないと言っているのに、スーツを魚臭くしてまで船に乗り込んだくせに、中々本題を切り出そうとしない。
スーツ野郎の要件は父ちゃんから聞いて知っていた。リゾート開発の会社から、じいちゃんから譲り受けた山を一億で売って欲しいと言われたようだ。自分がじいちゃんから貰った山のくせに、父ちゃんは息子に聞いてくれとスーツ野郎に言った。俺さえOKを出せば父ちゃんは土地の売買契約を進めてもいいとスーツ野郎に言ったのだ。
「あのクソ親父……」
父ちゃんはシャイだ。ただの人見知りの百倍くらいだ。どうせ東京からきた、いい匂いがしてキラキラを振り撒くスーツ野郎と話すのが嫌だったんだろう。だから全部俺に回ってきたんだ。
いつの間にかヤツの気配がないことに気付いた。おや? と思って振り返ったらスーツ野郎は膝を折り曲げへたりとしゃがみこんでいた。
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