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本によっては人魚の姉が「王子を殺して心臓を食べれば人魚に戻れる」と短剣を渡す場面があった。その姉の髪は誰よりも長く美しいのが自慢だったのに、無残に切り落とされていた。妹を助ける為、交換条件として魔女へ差し出したからだ。その姉の想いを受け、一度は短剣を手にする人魚姫。でも王子を殺す事が出来ない。
人魚姫は短剣を海へ捨て、朝日を浴びながら海の泡へ帰してしまう。
どの本を読んでも、最後は胸が塞がれるように悲しい。
「……別に俺は王子じゃねぇけど……」
父ちゃんも母ちゃんも、なんとなく俺に対して非難めいた視線を投げてくる。それを無視して船へ乗り込んだ。
あー……くそっ!
「あんた乗るなら早く乗れよ」
「……はいっ」
結局俺は、根負けしてスーツ野郎に声を掛けてしまった。スーツ野郎はホッとした表情で、上着と鞄を抱え走ってくる。鞄と上着なんて持ってくんなよ。と思いつつ、船に乗り込んできたスーツ野郎の手を掴み、危なっかしくフラフラしている身体を支えた。
「おわっ! どうも」
俺の腕に触れて、腕の中で小さくなってちょこっと頭を下げる。俺は慌てて手を離した。スーツ野郎はまたフラフラして、今度は船のヘリに掴まって心にもないお世辞を言った。
「わー、凄いですね。俺、船はフェリーぐらいしか乗ったことないので感動ですよ」
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