妄想女子と羊吉さん

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妄想女子と羊吉さん

『クリス様……! どうして、ここに?』 『言っただろう。俺は、お前を独りにしない、と』 『で、でも……私……』 (身分違いの許されざる恋、城を出る決意をしたセシリアは、と……)  稲葉(いなば)弥宵(やよい)は、お気に入りのシャープペンシルをさらさらと走らせ、ノートの罫線の間を殴り書き文字で埋めていく。弥宵の趣味は、男女の恋愛について妄想を膨らませ、それを文字に書き起こすこと。ちょうど今、本当に唐突に、書きたいシーンの台詞が脳内に降りてきたのだ。それが、目新しいセンスもなく、深い含蓄も何もない言葉だとしても、書き留めないわけにはいかなかった。 「次は、この“those problems”が何を指しているか、だ。これよりも前に出てきた問題点を三つ、簡潔に答えてもらおう」  弥宵の前方、教壇に立ち、テキストとチョークをそれぞれ手に持っている教師。英語科担当、且つこのクラスの担任の城山(しろやま)だ。銀色フレーム眼鏡のその奥に光る目つきは鋭く、短く切り揃えた黒髪が特徴的で、外見も内面も非常に厳格な教師である。上背があり、成長期を迎えている男子高校生たちと並んでも、頭一つ分高い。     
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