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そんな城山の授業は、分かりやすいが厳しいことで有名だ。居眠りをしようものならチョークが飛んでくるし、もしも課題をやってこなければ、その倍の量を放課後こなさなければならない。ただ、指名されて答えられなくても、分からないことを責めはしない。それが、弥宵に気の緩みを生んでいた。
「それじゃ、さっきから何かを必死にメモしている、稲葉」
「……えっ」
「答えてみろ」
城山に呼ばれた弥宵は、シャープペンシルを持つ右手を止めた。何を答えなくてはならないのか、聞いていなかったので全く分からない。
(しまった……! ああ、いつもの悪い癖!)
それもこれも、弥宵が妄想に浸っていたのがいけない。うまくいけば、今からクリス王子とセシリアの切なくも甘い感動的なシーンが書けるはず、だったのだが……。弥宵の頭からは、その場面ががらがらと崩れて落ちていく。同時に、全身の血の気が引いていった。
「稲葉。まずは返事」
「は、はいっ!」
眉根を寄せる城山に対し、弥宵は反射的に椅子から立ち上がった。ただならぬ雰囲気に、周囲の生徒たちが一斉に目配せを始める。「おい稲葉、何やらかしたんだよ……」「先生をキレさせると面倒だから、早く答えて」など、そんな無言のメッセージが、彼らの視線から伝わってくる。
「稲葉。“those problems”の指す、三つの問題点はなんだ?」
「えっ、えーっと……すみません。分かりません……」
「一つもか?」
「……はい」
「ほう。じゃあ、何をメモしていた?」
「それ、は……」
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