0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
・現代日本、夏。午前。住宅街。
男子高校生、篠宮優希(しのみやゆうき)は走っていた。
朝、目覚まし時計が鳴っていたのに気づかず、盛大に寝坊してしまったのだ。
(やばい!やばいっ!!今日は朝からゴリ男の授業なのに!)
ゴリ男とは、優希が通う高校の体育教師である。本名は忘れたが、全体的にゴリラに似ていることから、影で生徒たちにそう呼ばれている。ゴリ男は今時珍しい熱血教師で、遅刻したり忘れ物をしたりすると、罰として校庭を走らされる。それも授業が終わるまで、だ。
(朝からそんなの、絶対嫌だ!)
走るスピードを上げる。それがいけなかった。
信号が無く、あまり車が走ってない横断歩道を渡ろうとした時、キキィーーーーーッ!と横から車が迫ってきたのだ。ドンッ、という音とともに体が宙に浮き数秒たった後、優希の体が地面に勢いよく叩きつけられた。
…意識が朦朧とする。頭を強く打ったみたいだ。体が、動かない。
優希の目の前には、自分が流しているであろう血が視界に大量に映っていた。
(俺…死ぬのか?)
周りに人が集まってきていた。
「おい君!大丈夫か!?」
誰かに声をかけられるが、口が動かせない。
じわじわと、体の感覚がなくなってきた。
(ああ、俺…死ぬんだ…な……)
そして優希の目はゆっくりと閉じられ、二度と目を覚ますことはなかった。
・ギルネス王国辺境、西。アヴァン領。夏、朝。
この日、アヴァン領の領主館にて、一人の赤子が生まれた。名を、ウィリアム・アヴァン。
後に、「希望の勇者」と呼ばれる男の誕生である。
最初のコメントを投稿しよう!