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リナリア
馬鹿なエリ。
この世の中に絶対なんてことはないのに。
気がついた時、既に私は死んでいた。死の直前の記憶は綺麗に抜け落ちていたけれど、部屋の真ん中でふわふわと宙に浮いた自分と薄く透けた手のひらを見て、幽霊のようなものになったのだと理解した。なぜだかわからないけれど、突然の死に対する悲しみも後悔も湧いてくることはなく、ただどうして自分が死んだのかそれだけが知りたいと思った。
少しも取り乱すことのない、この落ち着きは何だろう。やはり死んでしまったことと関係があるのだろうか。そんなことを考えながら私は部屋の中をぐるりと見渡す。朝飛び起きてそのままにしたベッド、脱ぎっぱなしの洋服、床に積み上げて今にも倒れそうな漫画本、勉強机のそばに貼った友達との写真……。朝までの記憶は確かにあるのだけれど、その後のことが思い出せない。
コルクボードに並んだ写真を眺めながら、思う。私が死んでエリはどれほど悲しむだろう?
私の大切な友達、エリ。
エリとは幼稚園の頃から仲良しで、何をするにもずっと一緒だった。高校では別々のクラスになってしまったけど、休み時間には屋上で一緒にお昼を食べたし、放課後はファーストフード店で外が暗くなるまでお喋りをした。絶対に同じ大学に行こうね、そんな話もしていたくらいだ。
窓の外に浮かぶ月を見て、もう夜なのだと知る。そういえば、家に人の気配がない。いつもならこの時間にはお母さんも帰ってきているはずなのに。私は一階のリビングへ向かう。ドアや壁を通り抜けられることに気付いて、なんだか漫画みたい、と思わず笑ってしまった。
案の定、家の中には誰もいなかった。からっぽのリビングを照明が煌々と照らしていた。私はソファに腰かけながら考える。家族は私が死んだことを知っているのだろうか。私は一体いつ、どうやって死んだのだろう。何もわからないこの状況が気持ち悪くて、私は一生懸命もやのかかった記憶をたどる。
壁に掛けられたカレンダーが目に入った。私の今ある記憶が本当に今朝のものであるとすれば、今日は水曜日のはずだ。水曜日は授業がいつもより早く終わるので、よくエリと遊んでいた。もしかしたら、私が最後に会っていたのはエリなんじゃないだろうか?
私はエリに会わなければならない。そう、強く思って私は家を出た。
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