あいしていたかった

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あいしていたかった

私の夢は自分の洋服店を持つことだった。それは、年下のかわいい恋人ができてもこの胸にあり続けていた。 ドレスを作って欲しいと彼女に頼まれたのは、3年前の話だった。 「本当はウエディングドレス作って欲しいけれど、まだちょっと早いから、可愛い膝丈がいいなあー」彼女はそう言った。 惜しみなくかわいい我儘をまよわず受け入れて、私は奮起した。 それからは仕事の合間を縫い、名だたる職人から職人へ渡り歩き、技術という技術を盗み尽くし、ドレス製造への情熱を燃やしていた。 そして2年前の11月12日、彼女の2枚目の皮膚のつもりで製造した原型の、5回目の試着の日であった。 飾りもまだ縫い付けていなかったが、少女めいた、しかし完成された体が強調されて、何よりも美しかった。 私は緊張の糸を緩めてふうと息をついた。鏡の前の白い彼女が振り返る。 「どうしたの?」 「これ、本当にありがとう誠也。きれい」 君が百合の花のように笑うだけで胸がすく思いであった。心臓いっぱいに幸せが詰まって、破裂してしまうかもしれないと私は本気で心配した。 彼女は、そんな私の思いや感情を理解して、母親のように微笑むのである。     
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