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話聞いてなかったの?
「でも……!」とすがるように胸元をつかんできた夏月ちゃんへ、視線に離せよと込める。
夏月ちゃんってまんま口うるさいし、へんちくりんな方向におせっかいだし、王道すぎるくらいバレバレなんだよね。
自ら仕事を探して暇な時間を作らないように身体を動かす日々。今から俺が言う言葉に、夏月ちゃんが目を見開くことも。
「家族を失ったからって、ちょっと過剰反応しすぎじゃない?」
「過剰反応?」
夏月ちゃんの表情をうかがうと、彼女はとびきり不機嫌そうな顔をした。
「はるの父親は俺だよ? キミが俺達の何を知ってるって言うの?」
「なんともないならないに越したことないじゃないですか!」
だからさぁー。
言い返してきたことに、“煩わしい”そんな黒い感情が湧き上がる。
夏月ちゃんがゲームのヒロインのままでいてくれたら、せっかくこの生活も上手くやっていけるのかなって思ってたのに……
水をさされたみたいで、テンションが下がる。
「パ……」
ゴクリと夏月ちゃんが唾を飲み込む。
何が情だ。俺の生活まで変える権利がどこにある。
「パパさん達の何を? そんなの、聞かないよう言ったのはパパさんじゃないっ。他に行くところがないのに、詮索なんてできません……っ。守れるものがあるだけいいじゃないっ! 私は……っ。私にはっ、何もない!! 失って後悔しても遅いんです!」
「……」
夏月ちゃんの息遣いが響く。
けれど、場の空気は凍りついているというか。
……酔ってます?
「ええ、偉そうなこと言ってごめんなさいっ」
ハッと我に返ったのは、夏月ちゃんのほうが先だった。
家主に意見するなんて、おこがましくて……
やっと事の重大さを理解したらしいが、俺までついつい呆気に取られてしまった。
「偉そう……。いや、あ……」
俺までしどろもどろになってどーする。
『何もない!!』
まさか、そんな言葉に胸を貫かれた。図星を指され、痛いところを突かれた。
「明日になっても熱下がらなかったら病院連れてくよ。ほ、ほら、コイツのかかりつけの小児科、今日は休みだし。この時間帯だとどこも時間外で診てくれるか分かんないし……」
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