恭賀Side後編 3話:誕生日プレゼント

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病気を治すのは俺ではどうすることもできないけど、赤ちゃん一人病院に連れていくくらい造作もないことだという考えは見事に甘ったれていた。いざ電話をかけて病院を探すもなかなかはるを診てくれる病院は見つからなくて、とりあえず家を飛び出す程に焦りが最高潮に達した時、夏月ちゃんがぶつかった通行人がなんとサエだった。 グッジョブ!! 破壊の女神。やっぱり、サエは俺の運命の人だったね。 俺や夏月ちゃんの関係はぼかしつつ、大雑把な説明だけでサエは一度は断られたこの病院を紹介してくれたのだった。 はるを診察してくれたこの人こそ、親愛なるサエの奥様だったことに気づいたのが、胸元のネームプレートだ。小児科とはかけ離れた分野にも関わらず、忙しい合間を縫ってはるを診察してくれていた。 「……はい。いいですよー。この頃のお子様はお母さんからもらった免疫が切れてしまうことから風邪を引きやすくなっていて、おそらくそれでしょう。特にお薬も必要なさそうなので、お家でゆっくり休ませてあげて下さい」 「え、解熱剤とか飲ませなくていいんですか?」 「熱はウイルスや細菌であったり、それらと闘う為の防御反応です。だから解熱剤を服用したとしても病気そのものを治すことはできません。ハラハラされるお気持ちも分かりますが、それよりも部屋の湿度を高めに保ってあげたり、身体を冷やして熱を下げてあげることが元気になる一番の近道です」 「なるほど……」 すげぇ、サエの奥さんすごいよ! ここに来るまでが、勢いだけだったらジェットコースター並みの速さで、内臓が持ち上げられて身体ごと沈み込む独特の感覚に、俺ははるを抱っこしつつ、胃の辺りをさすった。 そうか、はるはこんな小さな身体で闘ってるんだな。そんなことくらい、いくらでも俺が変わってやるのに…… 断じて、邪な意味はないぞ。白衣だけなら俺もサエに診察を……なんて、断じで考えていない。 「ありがとうございました」 診察室を出て、疲れたやら安心したやらで、ほぅ……と息が出た。顔を上げれば、受付で待つ夏月ちゃんの丸まった背中が真っ先に視界に入った。 「あ……」
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