恭賀Side後編 3話:誕生日プレゼント

9/21
前へ
/152ページ
次へ
見慣れた背中が、いつもより小さく感じて歩み寄る足が止まる。 な……なんで、今更。 夏月ちゃんの姿を捉えた瞬間、はるを抱っこした腕から体温が冷えていき、呼吸が浅くなった。 結局、俺は散々夏月ちゃんに偉そうな態度をとっておきながら、へらへらした思考ではるを見て見ぬふりをしていただけだった。 大したことなかったよと早く安心させてあげたいという気持ちで足を動かし、夏月ちゃんの肩を叩いた。 「わっ!」 「ご、ごめん。そんなに驚くとは思わなかったから……」 「こちらこそ急に大声なんか上げてすみません。診察……どうでしたか?」 申し訳ない気持ちがよみがえってきて、俺は唇を噛む。 夏月ちゃんは気遣わしげな表情で、行き場を失った手に保険証と母子手帳を返した。 「うん……母親からの免疫が切れる頃からの一歳になるくらいまでは風邪を引きやすいから、おそらくそれだろうって。熱が続くようならまた診察に来るよう勧められた。それまでは首の後ろと脇を一緒に冷やして、部屋の湿度を高めに保つようにだって」 「そうですか……大したことなくてよかったー」 張っていた肩からホッと力が抜ける様子に、どれだけ心配をかけたか伝わってくる。 この子が……はるの本当の母親だったらいいのにと思う俺は安直だろうか。誰かの温度にすがりたいと思ったのは初めてで、俺ははるを抱いたまま夏月ちゃんを抱き寄せた。 この子が…… 夏月ちゃんの身体が硬くなる。 俺らはまだ世間を知らない単なる高校生だけれども、本気でそう思い、そう感じた。綺麗事じゃないけど……母親がいないのって、やっぱ辛いな。 「ありがとう……」 「帰りましょう? パパさん」 何の根拠もない気休めの言葉。 俺とは比べ物にならない数の大切なものを失ってきたのだろう。そんな夏月ちゃんが言うと、それだけで特別な意味を持って俺の目頭を熱くさせた。 エリカさんですら俺ではなく、“眞野恭賀”に近づき、“眞野恭賀”を必要とした。 歩き出した俺の後ろを静かな足音がついてくる。 俺、この生活にはるだけじゃない。彼女に救われてたんだ……
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加