33人が本棚に入れています
本棚に追加
シャワーを浴び直してリビングに戻ってくると、夏月ちゃんは保育園からの連絡ノートを読んでいた。
「寝かしつけても全然、起きなかったね。はる」
そういえば、そんなものもあったね程度で俺は夏月ちゃんに話しかけた。実際、夏月ちゃんが読んでいる姿を見るまで、物の存在すら忘れていた。
「ちゃんと……はるくんの体調がおかしいことも書かれてました。もう少し、私が気をつけていれば……」
「それなら、俺だって……」
横目で連絡ノートを見る。
後悔を口にしたらキリがない。
家族を事故で失っている夏月ちゃんならなおのこと。何もなければそれでいい。……なんて、簡単に片づけられっこないか。
「……あ! 私、飲み物入れてきますね。パパさんは冷たい物にしますか?」
「ううん。夏月ちゃんと同じ物でいいよ」
「では疲れが取れるよう、ホットミルクにしましょうか」
「ありがとう」
本当によくできたベビーシッターだ。
家族を事故で失った傷は、まるで今も癒えていないのだろう。きっと、体調を崩したはるは傷をえぐったに違いない。それでも夏月ちゃんは悲しみを歪ませることなく、悲しみを悲しいまま前向きに捉えようとしている。
前向きな悲しみってなんだよ。
でも……
不安に押し潰されそうになりながらも夏月ちゃんが前を見ていてくれたから、今の俺はこうして夏月ちゃんと一服していられるのだろう。
冷ますようにティーカップに息を吹きかけていた夏月ちゃんがカップに口をつける。ミルクを飲んだ瞬間、夏月ちゃんの全身の力がふにゃりと抜けた。俺と目が合い、気恥ずかしくなったのか少しだけ目を伏せる。
可愛いなぁ、なんて言ったら、はるの熱が下がっていないのに不謹慎だと怒られるだろうか。
今回は夏月ちゃんがいてくれて本当によかった。いなかったら、いなかったでクマさん達を呼んで大事には至らなかったんだろうけど、はるの存在が大勢に知られ、もっと大騒動になっていたかもしれない。
「そういえば……」
夏月ちゃんが口を開いたと同時に、カップに口をつけた。
「あつっ」
油断した……!
最初のコメントを投稿しよう!