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夏月ちゃんが普通に飲んでいたから、てっきり俺でも飲める温度だと……!
口からカップを離した際に、たぷんっとミルクが波立って俺の手にかかった。
「大丈夫ですか!? ティッシュ、ティッシュ……」
同時にティッシュボックスへと伸ばした手と手が触れ合う。
「あ……」
「……」
え、何、この反応……
触れた手を口元にあて、ポッと夏月ちゃんの頬が赤くなった。目を泳がし、まるで俺と目が合わないように顔をそらす。
「夏月ちゃん?」
「すみませんっ。私、部屋に戻ります!」
名前を呼んだだけで、ぴょこんと背筋を伸ばして……
残ったミルクを一気飲みして、カップもそのままに部屋に戻ってしまった。
しーんとしたリビングで俺はポリポリと頭を掻く。
あーあ、俺も罪作りな男だなぁ。
その日の夜。夏月ちゃんがウチに来て、初めてはるの夜泣きを一回だけ聞いた。
飲み物を取りに行く途中だった俺は、これがきっかけで夏月ちゃんが寝不足でベビーシッターを止めてしまわないか考えながら夏月ちゃんらの部屋の前で足を止めた。
「うりゃー」
「ぎゃーい!!!!」
え……、何してるんだろ。
中の様子が気になって、少しだけ身体を扉に近づけた。
何って、まぁ……あやしてるんだろうけど、はるの泣き声すんごいことになってるけど大丈夫だよね?
気軽にドアをノックできる時間帯でもなく、ドアの微かな隙間から覗く明かりを俺はじっと見つめた。
「よーしよし、いい仕事っぷりだねぇー。はるくんは将来、働き者になるね」
――は?
ドクンっ、と 血液が身体に送られる感触に、俺は目を見開いて固まった。
耳にははるの泣き声と一緒に、救急車のサイレンの音が残っている。
診察室を出て、疲れたやら安心したやらで、ほぅ……と息が出た。
はるってこんなに重かったかな?
腕に収まるずっしりとした重みに、後から思えばエリカさんのエの字も思い出す余裕はなくて、背負い込んだものの大きさに足がすくんだ。
働き者とか、意味分かんない……これが続けば夏月ちゃんだって。
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