恭賀Side後編 3話:誕生日プレゼント

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騒音にしか思えないはるの夜泣きを、彼女は優しい声色で「ありがとう」と言った。 心配ってなんだ? 何をすれば心配になる? 俺の気持ちは、本当に心配だったのだろうか。 はるの夜泣きがどんなにひどくても、俺の視線は携帯に向いていた。 夏月ちゃんの「ありがとう」が頭の中でリフレインする。 ……女神の名は伊達じゃないな。 手が触れて、顔を赤くした夏月ちゃんを思い出して、きゅっと心臓がつかまれた。 ********** 「ぬ、うおおおおっ……」 忙しい平日の朝ということを忘れさせるようなマスカットの香りから始まった朝と、一瞬、昴クンを錯覚させるようなティーセットの数々がテーブルの上に並ぶ。白と花柄の陶磁器のポットに朝日が反射して、英国風にスタンドに並べられた芸術作品のようなお菓子達も輝いて見える。 そんな舞台背景を台無しにするマナーのへったくれもない唸り声を発する俺! 今か今かと夏月ちゃんに罵られるのを待っていた。 「あ、あの! 多趣味なのは結構ですがっ、子供に聞かせる内容としてはどうかと思います! 理解できないと思うけど……はるくんだって男の子だし、ちゃんと聞こえてます!」 ははっ、その顔が見たくて分かってて聞かせてるんだよーっだ。もちろん、夏月ちゃんにね。 外では決してプレイできない音量で乙ゲーを楽しんでいた俺に、夏月ちゃんはテレビを背にはるを隠していた。 唇を噛みしめながら、キッと上目遣いに俺を睨みつけてくる夏月ちゃんの表情だって随分、情操教育にはよろしくないと思われるけど。 ゲームでこれだけいい反応を見せつけられては、リアルで迫ったら一体どうなってしまうのか想像が掻き立てられる。 嫌がる夏月ちゃんの耳元に携帯を近づけた。 「いいじゃん、いいじゃん。みんなでやろーよ。夏月ちゃんも聞いてみ? ハマるよ?」 「いい、いえ、私は結構。遠慮します!!? いや! も、もう結構です!!」 「ね?」 「っ~」 それで俺の身体を押し返しているつもりなんだろうけど、痛くも痒くもない。しいて言うなら胸の辺りがくすぐったい。さすが夏月ちゃん。男のあおり方を心得ていらっしゃる。
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