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「えっと……、パパさん?」
「え? いや、あ……はるの……誕生日?」
なんのことだ?
俺のほうこそ自分の思考に落ちており、投下された言葉に思いっきり動揺した。心臓がバクバクとうるさく脈を打つのを感じながら、装うことも忘れて浮かべた笑みは曖昧になった。
「ご、ごめんなさいっ。勝手に見るつもりはなかったんですが、病院で保険証を返してもらった時にはるくんの誕生日をたまたま……見てしまいました」
保険証……?
この沈黙はよくないだろ……そう思うのに言葉が出ない。
こういう時、君尋クンなら……
「やっぱり、小さくても男の子ですね!あと何年かしたら、この部屋も戦隊グッズでいっぱいになるんだろうなぁ」
テレビを見ながらはしゃぐはるに夏月ちゃんは目を細める。
あと何年? 俺達にそんな時間……
「……はるも夏月ちゃんに祝ってもらえればうれしいと思うよ」
俺なんかよりもね。……って、君尋クンが絶対に言わない言葉だろ。
瞳は彼女の真意を探ろうと細めながら冷めた気持ちを隠して機械的に口角を左右に伸ばす。
敏い女の子って、本当、怖いなぁ。もう四、五年もすれば、みんながうらやましがるお嫁さんキャラになるんだろうね。……あの人とは真逆の。
カップの中に“彼女”の姿が映った気がして、これ以上この口から嫌味が出ないよう一気に中身をあおった。
手の絆創膏、豪華すぎる朝食。……張り切って作っているうちに楽しくなっちゃったのか。
はるのことを大切にしてくれているのを感じて胸が温かくなるどころか、己の無力さにぽっかりと穴が開いているのを感じる。
「そうだ!はるくんのティッシュボックスと一緒に緩くなっていたパパさんのパンツのゴムも入れ替えておきました」
「……」
そっと。俺は両手で顔を覆った。
昨日の夏月ちゃんは……
なんとなく。なんとなく、そんな予感もしてましたけど!
はるの誕生日プレゼントを思いついたことに興奮して、真さんの声にゾクゾクして。……俺、男として認識されてなくない!? これは……いわゆる、姉弟扱い! 何か違うよね! 何か違うよね!? ね!?
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