恭賀Side後編 3話:誕生日プレゼント

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その8時間後。事態が変わるのは思いがけず一瞬で、妄想が現実となった。 今度はクラスメイトらが帰った後の放課後の教室で、俺はどんな乙ゲーボイスよりも甘く、夏月ちゃんに迫られていた。 上目遣いに真っ直ぐ、俺の瞳を見つめて―― えーっと、夏月ちゃんは日直の仕事をしていて、俺はいつもと同じように机にうつ伏せて居眠りをしていたはず。 音楽プレイヤー落としただけだよ? 夏月ちゃんの口からいきなり「真さん……」なんて聞いちゃったら、興奮するでしょーが!! イヤホンが抜けて、漏れる音源。落とした音楽プレイヤーを拾い上げた手をつかまれ、現在に至る。 かき上げられそうになった前髪を押さえながら、俺は後ずさった。誤魔化しようのない露わになった瞳をこれでもかというくらい丸くして口角を引きつらせた。 夏月ちゃんも負けないくらい目を丸くして、俺の顔を覗き込んでくる。 無理もない。いきなり目の前に“パパさん”が現れれば確かめたくなるよね。でも…… 分かってるのかな。夏月ちゃんの目に俺の表情が見えるってことは、俺がちょっと頭を下げれば頭突きだってできるし、それに―― 「……いやーん。夏月ちゃんのえっち?」 そっか、こうなることをどこかで期待してたんだ。 忘れていた瞬きをして、夏月ちゃんの口が大きく開く。 「パ――」 え! 「ちょい待ち! 叫ぶのはなし!!」 「むぐっ」 夏月ちゃんの声は、咄嗟に塞いだ俺の手の中に消えた。 「しーっ」 期待していた、まさに乙ゲーのあるあるな展開なんだけど、もうちょっとこう……中身のある展開からとかなかったわけ!? 乙ゲーでも、もしかして……って思ってから、数日はネタを盛り込んでくるよ!? それを直感とか! 8時間でぶち込んでくるとか! もったいない! あ~っ、不覚! なんか悔しい! デレデレな顔で説得力がまるでない俺がね! はるの保険証といい、そうだ。ゲーヲタってバレた時もそうだ。にぶちんなくせに妙なところに聡い。イヤホンか! イヤホンが駄目なのか!? こんなことになるならさっさと帰ればよかった! はるの誕生日を知ってしまった以上、とりあえず街をぶらついてみるつもりだが、クマさん……じゃない。くまちゃんマン(えらい違いだ)ぬいぐるみでも買っていけばいいことだし、ぶっちゃけ一歳児の誕生日を祝ったところでなんになる? ってのが本音で。 やっぱり、現実とゲームは違う。
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