恭賀Side後編 3話:誕生日プレゼント

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父親を装っている俺が何もしないのはさすがに怪しまれるだろう。別にクマさん達に話せばノリノリでアドバイスしてくれるんだろうけど、今朝のメール見ちゃったらねぇ。 あとはケーキくらい買って、俺達で食うか。……いや、夏月ちゃんが作るな、絶対。 保険証たるものに目がいくとは、さすが女性の細やかな目線……と、今朝の紅茶の味と揺らぐ水面を思い出しそうになり、ぐっと奥歯を噛みしめた。 だから、人と目が合うのは嫌なんだ。 ――正体がバレたのは仕方ないけど、……プレゼントって何をあげればいいんだ? はるが喜びそうなおもちゃすら思い浮かばないことにさえ動揺していない俺の目を、空っぽの心をどうか見ないで。 と、廊下から微かな足音が聞こえた。直後、慌てて忍び足で去っていく。 うーん、この状況は…… 俺は夏月ちゃんに襟首をつかまれ、中腰。そんな俺に覆いかぶさる夏月ちゃん。 さぁて、傍目にはどう見えたことやら。 夏月ちゃんという壁でおそらくだが俺の姿は見えていないはず。後は夏月ちゃんの後ろ姿で、夏月ちゃんと判断されたかどうかだけど。 去っていったのがそもそも誰だか分からないし、夏月ちゃんの交友関係を把握しているはずがない俺が分かるわけもなかった。 「俺が誰だか分かるよね?」 コクコク。 「びっくりした?」 コクコク!! なんか面白いな、コレ。 「じゃあ、叫ばない?」 ……コ、コク。 期待通りというか、お手本通りというか。ツッコミどころ満載な間を置いて、夏月ちゃんは頷いた。 俺は夏月ちゃんの目をじっと見つめながらゆっくりと手を離す。 「つ、つまり……眞野くんとパパさんは同一人物で、はるくんのお父さんは眞野くん……?」 「おぉーっ。よくできましたぁ」 「えっ、でも……でもだよ!? 髪型が違うだけで、こうも人って変われるの……?」 「変われちゃうんだなぁ、これが。しっかし、夏月ちゃんに勘づかれたぐらいで動揺しちゃうとは……俺もまだまだ修行修行が足りぬ」 でもだよ、だって。 校内で“パパさん”と呼ばれる日が来るとは夢にも思わず、少しくすぐったい。夏月ちゃんの目の回し具合には拍手を送ろう。
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