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もう、俺の中で夏月ちゃんは聡い女の子に位置づけた。三度も同じ轍は踏まない。
この乙ゲーのシナリオが全部で15話だとしたら、好感度がやや足りない気もするが(←自己防衛)、ノーマルエンドを目指すなら、今はちょうどシナリオ6日目ってところかな。
「でも……正体がバレたとなれば、やっぱりベビーシッターの件はなかったことに……」
ここはため息で間を繋げて、と。
「いやいやっ、そんないきなり……私、誰にも言いません! だから……っ」
「でもね~」
あー、 いちいち俺のツボだ。もっと、イジメたくなる。
「他事をしていても、お風呂の水をあふれさせずに止めることができます! ビバ☆節水! です!!」
ブブッ。この子、本気で言ってるのかな?
「それって長い目で見る必要があるよね。長ーい目で。つーか……」
あ、駄目だ。
「ぷっ。信じるんだ。くくくっ……」
「!?……嘘なんですかっ。どこからどこまでが!? はるくんがパパさんの子供っていうのも……?」
「ごめん、ごめん。はるは正真正銘、俺の子。早川は母方の姓。あ、言っとくけど離婚してるわけじゃないから。まぁ……ある意味、離婚してくれたほうがありがたいんだけど。あのマンションが母方の名義になってるから、苗字が違うと根掘り葉掘り聞かれていちいち答えるの面倒でしょ? だから、学校以外は早川で名乗ってんの」
「どうして……そんな、騙す真似……」
……ちょっと喋りすぎたか。騙す真似ってお互い様だっつーの。
焦りから凍りついていた表情の中に、驚愕……軽蔑の色が見えて、俺の深いところに突き刺さる。ここまでペラペラ話しておきながら、この先を言うのが怖くなった。
ここまで言ったら後は一緒なのにな。
「夏月ちゃんって、結構エグいよね」
キミに、俺の何が分かる? 大切な物を失った痛みと手に届かない憧れは、やっぱり別物なんだね。
はるは俺に残された唯一のエリカさんとの繋がりだから。
俺はニッと口角を上げる。
俺は演じることをやめないよ。
「それにぃ、騙すなんて夏月ちゃんには言われたくないなー。高校生は駄目って言ったでしょ? お互い様じゃん」
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