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「でも! 精一杯応援してるからっ」
意気込んでみたもののといったところか。力なく下がった手が筆箱に当たったらしく、軽い音を立てて中身が床に散らばった。
一瞬、場が静まる。
「出た。破壊の女神」
「裕介!」
「ご、ごめんなさい!」
弾かれたように床に手が集まり、
「あのっ。ノート、机の中に入れといてくれたらいいから。本当にごめんなさい。私、先に帰るね!」
「磯野!」
「部活頑張って! あんまり無理しちゃダメだよ」
パタパタ……
あーぁ、今のが選択肢だったら……
A.唖然とする。
B.追いかける。
だとしたら、正解はB.だろ。ハピエンかノマエンのフラグっぽかったのに……とりあえず、主人公は追いかけておくのが乙ゲーの鉄板だって知らないのかな?
筆箱が落ちた音に起きないほうが不自然かと考え、のそりと身体を起こす。裕介クンの足元にシャー芯のケースが落ちていることにも気づいたが、無視した。
「かぁーっ、じれったいねぇ」
「ねぇねぇ、裕介! 俺、何か磯野の癇に障るようなこと言ったかな!?」
「はぁ!? 俺が知るかよ。そんなに気になるなら、さっさと告くればいいだろ。磯野の奴、高校に入ってから雰囲気変わったって言ってる奴ら結構いるぞ」
「えっ!? こくっ、い、いや、磯野とはそんなんじゃないし……」
照れちゃって、カワイイー。などとノリで突っ込んでみたものの、「はいはい」とため息をついているわけで、
「じゃあ、俺も先に行ってんぞ」
「あ、うん。本当……俺に磯野はもったいないよ」
……。
ノートに書かれた持ち主の名前を、再びうつ伏せた視界の端で捉えた。ノートを持つ、ピンクから白色へと変わった指先が彼女への想いを表していた。
磯野夏月(いその かづき)……
そう、磯野夏月。俺が先程から彼女と表現し(もちろん、三人称代名詞として)、読み名は『かづき』でありながら、男子でも男の娘(こ)でもない。人望も厚く、クラスの中心を担うことになるだろう人物・本橋由宇(もとはし ゆう)に見初められた女の子。
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