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……きっと、いい子なんだろうな。
柄になくそんなことを思ってから二日が経った(予想通り、本橋クンはクラス委員に選出されていた)。
放課後独特の一人、二人と減っていく物悲しさというか、寿司詰め状態から一人になれる瞬間は割と好きになれそうだった。
根暗……何、期待してるんだか。
俺は、待っている。来るわけのない、あの人を。
中学校の校舎と教室の景色は似ているのに、何かが決定的に中学の頃とは違っている。窓の外に視線を投げながら、その違いが何か考えていると、
ガラガラ――
反射的に音がしたほうを振り返る。
「あ……」
……出た!
扉の前でためらう素振りを見せたのは、髪の毛から水滴を滴らせた本橋クンだった。
本橋クンの席である、前の席に視線を動かす。となれば、目的は机から今にも落ちかけているタオルか。
足早に気配が近づき、視界の端から引ったくるようにタオルが消えた。ゴソゴソと鞄を漁る背中が立ちはだかる。
まだまだ朝晩の冷え込みが厳しい時期にずぶ濡れとか何やってるんだ? と俺が思っているように、大方、こんな時間まで何やってるんだ? って思われてるんだろうな。
ただ席が前という理由だけで、何をするわけでもないが本橋クンの行動はいちいち目についた。
視線を窓の外に戻しながら鼻で息をつくと、
うっ、あま……なんだ、これ。香水? 仮にこれが香水の匂いだとしても、甘ったるすぎやしないか?
嗅ぎ慣れない匂いた鼻が反応して、くしゃみが出た。
「わ、わりぃ!」
「は?」
あ。
何に突然、謝れたのか分からず、不快感も忘れて目を丸くした。丸くして、自身の失態に気づいた。
まだ高校生活○日目を言い訳にしても、演じている“眞野恭賀”の人物のブレを自身が把握しきれていない。
とりあえず笑っていれば結果がついてきていた中学の頃とは違う。俺の過去を知る人物は、ここにはいない。
結果なんて必要ない。それが、好奇の目にさらされることになっても、もう何も望まな……と、くしゃみが出る。
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