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 入り口の門には鎖が掛かっているが、その隣にある人間用の扉には施錠すらない。  完璧だ。……いや、欲を言えば抜け穴を探すくらいはしたかったが。  まあ、常識的に考えれば不法侵入。そういった背徳感も如実に緊張感を煽ってくれるが、立入禁止の札も無かったことだし許容範囲だ。  さて、玄関の扉はといえば――お約束通り、鍵は掛かっていなかった。    入ってみると、中は真っ暗だった。扉から差す光を頼りに窓の方を見ると、遮光カーテンで徹底的に光を遮っているようだ。  玄関の扉を閉めると、もはや何も見えない。雰囲気作りと揶揄するには些か度が過ぎているが、それが招く恐怖は素晴らしい。  例えば、今手に持っているスマホのライトを使ったとしよう。そしたら目の前に何かがいた――となる可能性がある。  心音が上昇するのが分かる。じわじわと握りつぶされるような、背中へと這い寄るような、そんな恐怖を禁じ得ない。  恐る恐る、スマホを操作し、ライトを付ける。  何も、いない。  その代わりに、この空き家の全容は見えてきた。  左手には件の二階へと通じる階段が、右手には半開きの扉があり、その向こう側は食堂……だろうか、テーブルの上に乗った白い皿が辛うじて見える。  そのさらに奥には暖炉らしきものが見え、どうやら、外観に恥じぬ内装を誇っているようだ。 「フッ、メインは最後だな」  そう呟いて、私はその食堂を見てみることにした。  洋館風の外装らしく、床はフローリングで、土足のまま上がる海外式だと解釈し、私は靴を履いたままその扉の前へと。  半開きの扉の向こうには、吸い込まれるような闇が広がっている。  この奥で幽霊家族が食事中だったらなと、妙な期待と恐怖からなる興奮に身を任せて、私は、ゆっくりと扉を押し開けた。  また、何もいない。  そこにあったのは、普通に一人分の皿が置かれているだけの、実に寂しいテーブル。  赤いテーブルクロスが、逆に惨めさを強調している。 「ま、こんなものか」  とはいえ、前菜というべき事で落胆していたって意味はないので、寄り道は止めてとっとと上に行くとしよう。  そう思って私は振り返った。  目が合った。  
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