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「――ッ!」  瞬間、私は我に返った。  そうして、すぐさまドアノブに飛び付いたけれど、全くと言っていいほど開く気配がない。  ドンドンと扉を叩き、「誰かッ!」と声を荒げる。  返事はない。それが不安を煽る。 「クソッ!」  スマホを操作して、電話帳を開く。緊急通報の番号を入れて、耳に当てる。  掛からない。  見ると、電波強度を示す棒が一本も立っていなかった。 「圏外……ッ?」  このご時世、街のど真ん中で圏外などと、普通ある訳がない。  けれども、そうなってしまう理由は、確かにあった。 「なんだ、何なんだ、この部屋は?」  完全に外界と隔絶するためのアルミホイル。度が過ぎる異臭。床に広がる赤い液体。外にしかない鍵穴。 「あ……」  私は、気付いてしまった。  自身の手に付いている、さっきドアノブを触った時に付いた液体が、何であるか。  これは、血だ。紛れもない、血だ。    何の血だ? 誰の血だ?  私の血、ではない。外傷は一つも負っていない。  だとすれば、どうだ。どうなんだ。  ここで。  イッタイ、ナニガ行ワレテイタ?  ……ああ、そう言えば、あの扉を叩く音を出していた何かは、一体、どこに行った?  ――背後で、ガタッと、音がした。  ピチャリ、ピチャリと、ふらついた水音が、足音が、だんだんと、近付いてくる音が、した。  振り返る暇は、なかった。  ただ、あの肉塊の正体と、自身の行く末を重ねながら、私は――――
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