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ふっつりと、肌を刺すような敵意が途絶えた。闇は静まる。
ユージーンは宝剣に掛けた術を解いた。また無害な据え物のふりをした魔性が襲い掛かってこないとは限らないので、鞘には納めない。
剣身の白光が失せると同時に、皺が寄っていたらしい眉間を緩め、長く息を吐く。
(魔性相手に、第二級の術を三つも使うことになろうとは……)
かつて市外の砂漠で、頭部も尾も双頭に分かれ、人の身の丈を遥かに超える鎌首をもたげた大蛇の化生を討伐したことがあるが、その時ですら第三級の術を二つ、第二級の術はたった一度使用したのみであった。
彼はそう思い返し、妙な点に思い至った。
此度はその時以上に高度な術を用い、相当な魔力を使ったはずなのに、ほとんど消耗している様子がないのだ。星月夜か、グリヴァルの神域内にいるならば話は別だが、此処は恐らく征伐された旧神の遺構らしき空間だ。加護を受けられるはずがない。
(征伐される悪とはいえ、原初の母神であることに違いはない。元を辿れば、ルシャイムスはかの系譜に合流するからだろうか?)
そう悟性では納得できる範囲だが、感覚としては受け入れがたいものがある。
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