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ユージーンの疑問は増えるばかりだ。「戻っておいでなさい」と恋人――どちらかというと子に呼びかけるように優しく此方を呼んでおきながら、他方怨念すら感じられる叫びを発する像が襲撃してくる。この二つはどう折り合いが付くのか。
(……進めば、それも判明するのだろうか)
今は余計に思惟しないことに決め、彼は柱間の長い大階段へと向かう。
その時、再びあの呼び声がした。
それを合図にしたかのように、突如足元に蒼い線で図形が浮かび上がる。
各線より光が上方に垂直に放たれ、ユージーンの長身よりもなお高い障壁が形成された。
(自律魔法陣!? しかし、この構造は――)
それはユージーンが未だかつて見たこともないような、面妖とすら言えるものだった。
くながう蛇のようにもつれる二本の線で造られた円の中に、同じ図形が二重に描かれている。直線が一つもないという点でも、異様にルシャイムスとその眷属の魔術に慣れた彼の眼には異常に映った。
しかし、罠に嵌められているという疑義はまるで抱かなかった。
直感でしかないが、然るべき導きの中にある――という感覚がユージーンの中で強まってきたのだ。
呼び声のせいなのかは分からない。
されば、身を任せるのみだ。
ユージーンの視界から、蒼い壁の向こうの白亜の神殿が薄れてゆく。
やがて魔法陣の光が一際強まると、彼の姿毎掻き消えた。
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