1 始まり Beginning

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 十年に一度、夜天の星々の煌めきも烈しい夏の盛り、九日間に亘りその祭儀は行われる。  夜の女神ルシャイムスの威光を讃え、その加護をあまねく受け、宗旨を同じうする神殿都市群を更に発展させようという、二千年紀前の古代より大都市ラナスフィリスにて続く「夜光祭」である。  現在、人間の居住地であるスファイラ大陸の東部の神殿都市の九割方を占めているのは、ルシャイムス女神そのものか、その化身らを信仰する都市である。  それだけに、祭儀を執り行うことは重要だ。視方によっては、現代の文化、そして歴史の脊髄を担うといっても過言ではない。  実際、ルシャイムスはそれだけ力のある女神なのだ。  詠み人知らずの叙事詩「星々が出でる時」によると、女神ルシャイムスは渾沌が拓けてから長らく全存在の覇権を握り、一切を闇に包んでいた母神を斃し、世界に明暗の分かれ目、そして平穏をもたらしたのだという。  母神は強大無比であったが、女神は全く違う姿、特性、力を備えた八つの化身を持ち、自在に変幻しながら神を翻弄し、遂には屈服させたと、詩人は高らかに歌い上げる。  神話的脚色が幾分含まれているにせよ、同門の神殿騎士であっても操る系譜の魔術は八に及ぶというのだから、変幻するというのは誤りではなかろう。人間がどの系統の術を操るのかは、純粋に神が授けることのできる加護の種類によるが、大抵は一つか二つにしがないのである。
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