1 始まり Beginning

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 そのように並ぶものなき深遠なる力を誇り、巨悪を滅ぼし、世界を平定した全能のルシャイムス女神を礼賛するという目的で夜光祭は行われるのだ。  祭儀は第一の化身から第八の化身、そして真の姿をしたルシャイムス女神を九日間連続して夜半から日の出まで祀る。化身はそれぞれに仕える筆頭神殿騎士が祀り、最終夜に女神を祀る大役は騎士長が担う。  ユージーンは第四の化身・グリヴァルの筆頭騎士である。  若干二十歳の彼は、記録が残されている限りにおいては、最も若い部類に入る筆頭神殿騎士であった。品行方正さ、容姿の端麗さ、成績優秀さ、星月夜を司るグリヴァルの系譜の多彩な術を殆ど全て、難なく使いこなす図抜けた才――年齢にかかわらずそうした部分が周囲に認められた結果である。  特に眉目の秀麗さについては、叙事詩に記載のあるグリヴァルの容姿に瓜二つではないかと巷で有名であり、殊婦女子が盛んにほめそやす。    夜光を照り返して艶めく黒髪、白く輝く月を思わせる肌、切れ長の眼を彩る蒼氷色の冷たく煌めく瞳、怜悧さのある整った鼻梁、固く引き結ばれた、薄すぎず厚すぎない唇、すらりと伸びたしなやかな長身。  髪の色が瞳と同じ色という以外は、歌の中の美しい化身と全く変わる所がない。  ユージーンが卓越した術者たりえるのは、グリヴァルの現身だからとさえ言われる程に。
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