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あまりに唐突で、急激な異変は、しかしユージーンに何の抵抗も感じさせなかった。
ほとんど一瞬のうちに終わったからだけではない。
優しい感覚だったのだ。掌中にそっと握りこまれ、開かれたような。
邪悪な存在が神殿に攻め入り、彼が魔手に捕らわれたのだとはとても考えらえない。
しかし、眼前を覆っていた闇が晴れた瞬間、彼は驚愕、そしてある種の恐怖に蒼氷の眼を見開いた。
そこは、もはや彼がいたラナスフィリスの神殿内ではなかったのだ。
摩訶不思議な空間だった。
ユージーンが立っている大地は、文字通り闇に浮遊している。
彼の視線の先には、真白い建造物があった。
有翼の幻獣を象った彫像が向き合う門、緩やかに伸びる階段、その両側に聳える列柱、階段の奥に存在する、三つの小さい塔を備えた円形の施設。
一切が、白い。
しかし、闇に閉ざされることなく、その白さは浮き立っている。自ら輝いているのか、闇は闇でないのか、そのどちらかであるかのように。
一目見て、老朽化などしている様子はない。無論というべきか、人や動物の気配は全くない。
ただ、尋常ならざる闇の力がそこかしこに満ちているのを、神殿騎士として訓練されたユージーンは全身で感じ取っていた。
不快ではない。だが、全く未知の感覚だった。
高密度の大気が遍満しているような存在感でありながら、他のものを圧し潰してしまうことはない、ごく自然にあるような。
ルシャイムスの恵み、グリヴァルの加護を受けたときですら、そのような印象を抱いたことはなかった。
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