2 暗黒 Summoned into darkness

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 「戻っておいでなさい……」  例の声が再び、ユージーンの耳に聞こえてきた。  ラナスフィリス神殿で耳にした時よりも、更に明朗に。  彼に語り掛けているのが明白だった。  今回は、発生源をしっかりと認識できた。  前方――彫像の門の遥か奥、至聖所と思しき円形の施設の内部だ。  (行くしかないようだ)  ユージーンは立ち上がった。  四方は奈落、脱出経路などとてもありそうにない。ならば此処は、何の目的あってか、そして自分に覚えなど全くないが、己を呼ぶ者の意思に従う以外にないだろう。    彼が門に向けて歩を進め始めた途端だった。  二体の彫像の頭部が、仄暗い群青に発光し始めた。  (っ、何だ!?)  ユージーンは咄嗟に歩みを止める。  魔術の使い手ならば容易に分かる。高密度の魔力の焔だ。  熱はない。その代わり、途方もない敵意に満ちた、闇の力が冷たく燃え盛っている。  それまで中立的な静寂を保っていたはずの大気が、突如彼に牙を剥いたように張り詰める。  宝剣を鞘払って構えるユージーンの前で、焔が激しく燃え上がり、彫像全体が呑まれる。  左方の双頭の蛇の尾を持つ獅子のような像、右方の鷲の頭部に馬の下半身を持つ像。  生命を持つはずのない異形の像が、双翼を広げた。  地響きのような音を立てながら、爪を振り上げて侵入者に飛び掛かる。    「聖域を侵す簒奪者に呪いあれ!」  「貴き闇を穢す蛮神に裁きあれ!」  放たれる怨嗟の声。  それは音声ではない。ある種の魔術により、精神に直接呼びかけてくるのだ。  (“リビングカービング”かーー!)  ユージーンは片手で剣を左右に薙ぎ払い、魔力を帯びた白岩の蹄を二度弾く。  無機物に魂が吹き込まれた魔性には二つある。操作者の存在する、魔力で動く土人形――ゴーレムは著名だが、この手の自ら魂を得た“リビングカービング”は非常に稀で、実際に目にした者などほとんどいない。  余程の魔力が集中している特殊な環境であって、かつ何らかの生物を象った人工物が存在しているのでなければ、発生しないためである。    それだけに、この異空間が尋常なものではないことを、ユージーンは刃から伝わる振動からも痛感する。
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