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「ふわぁあ~」
妙子は、大きな欠伸をひとつすると縁側から青々とした庭が望める客間にごろんと仰向けに寝そべった。
コンビニに行くにも車で30分はかかる山の中にある平屋の広い日本家屋。
のんびりとした昼下がり。夏休みで父の実家へ来ていた妙子は、ひとりでくつろいでいた。
木目の美しい天井を見上げながら、来年は高校受験を控えているためこんなのんびりした休みはお預けだろうなと考えがよぎる。
思わず小さなため息を漏らすと、開けはなられた引き戸からしっとりとした緑の風が入り妙子の汗ばんだ肌をやさしく撫で心が軽くなる。
マンションの我が家とは違う。青い畳の香がする。
――― 私の故郷じゃないけど。どこか懐かしい……。
これが、『田舎』というものなのかとぼんやりと思っていると、さかさまの視界に床の間が映った。
床の間には品の良いキキョウの生け花。祖母が飾ったものだろう。
そして、花の後ろには掛け軸がかかっていた。
白と黒の濃淡で書かれた、水墨画。
絵心のない妙子は、以前美術館で水墨画を見たときタダの線の集まりでつまらないと思った。
しかし、この水墨画は違い目が釘付けになる。
彩色されていないというのに、そこには生きているかのような3羽の鳥が描かれていた。
空を舞うツバメだ。
風を切るように、
地をかすめるように、
太陽へ向かうように翼を広げる三羽のツバメ。
――― 生きてるみたい……。
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