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魅入られたように、しばらく見つめていると妙子の頭上を黒い影が横切った。
「えっ!?」
掛け軸から一羽のツバメが飛び出したのだ。
あわてて起き上がり、追いかけるとスイと弧を描いて青空にとけて見えなくなった。
「今のはいったい……」
ミーン ミーンと蝉の声だけが響く空を見上げ妙子が呆然としていると、祖母が声をかけた。
「妙ちゃん、スイカが冷えたからどうぞ」
「おばあちゃん、今、ツバメが!?」
「ツバメ? ああ、掛け軸のね」
祖母は、ふふふと静かに笑っただけだった。
掛け軸を見れば、3羽いたはずのツバメが2羽しかいなかった。
「この絵のツバメは……」
『最初は、3羽いたよね!?』言いかけて妙子はやめた。
掛け軸から、鳥が飛びだしたなどと言って、祖母に心配をかけたくなかったからだ。
「ツバメは、生まれたところに帰ってくるんですって。だから、今年は譲り受けたこの絵を飾ってみたのよ」
さあ、冷たいうちにスイカをどうぞと促され、妙子は赤いスイカを頬張った。
冷たく、甘い果汁が口の中に広がると体が潤い元気なってくるのがわかる。
――― あのツバメも、帰ってくるのかな?
それを確かめに、忙しくても来年もここへ来ようと妙子はひそかに決意した。
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