ファンタジーラボ

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 「皆さまは本日、歴史が二度ひっくり替える瞬間を御覧になります」  バスの中、考古学の権威阿良田孝子(あらたたかこ)はラボの視察に訪れた学者たちに語る。  「一度目は、古事記に於ける天孫降臨は、日本人と宇宙人のファーストコンタクトを記録したものだとお伝えしました。どこの星から来た神々かというと"天王星"それから神々の移住先である"冥王星"です。俗に冥府と言われる場所」  「思い出したよ。仮説としては面白い研究だったね」  先頭のシートに座る学者仲間の男、柳沢邦治(やなざわくにはる)は車窓からファンタジーラボに通じる道を眺めながら答える。  「天孫降臨は地球を次期移住先とするために、土着の民に高度な文明を教え、よりよい子孫を残すために、異邦神アメノウズメと土着神サルタヒコが結婚しました。土着はもともとそこに棲んでいた、異邦はよそ者と言う意味です」  「それで天竺と言う、漢字の羅列は音読みと訓読みを消すと、特定のリズムだけが残り、それがモールス信号のように神々と交信できる。人間が何故ミイラを製造するのかは、そこに神々がエネルギーを送るために、保存する必要がある、それは......」  「八百万カロリー、その通り。余談ですが、神社の二礼三拍手は同じ原理だと言えます」  「学会では君の仮説は、そのぶっとんでるって評判だよ。今回もぶっとんだ仮説を聞かせてくれるのか?」  土偶は神々が地球で活動するための、パワースーツで、旧約聖書の序文"まずはじめにことばあり"を現代語訳に直すと"音声入力"と言う解釈が出来ると言うことなど、無論あらゆる学会からも批判された学説であるが。  「私はそうは思わない。だって仏教の地獄とダンテの地獄コキュートスって構造が似すぎてると思わない? そうそう今回の仮説は、ファンタジー世界の実在についてよ」  孝子は、そこで漸く本題に切り出した。
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