午前七時

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ついジロジロ見ていると、ものすごく不機嫌そうな目で睨みつけながら順番を譲ってくれた。 トイレの扉に手を掛けながら、バカみたいな質問がふと口をついて出た。 「お前あいつと付き合ってんの?」 「は?」 勝ち気で生意気そうな目が心底不愉快そうに細められるのを見て、何故かまた俺の心臓が騒いだ。身体中を血が駆け巡り、頬が赤くなったのが自分でも分かる。 そんな様子に気付いたのか、ふっと表情が緩み困惑している。 「……DVD観に来て泊まっただけ」 「祥爾、何やってんだ!」 トイレからなかなか戻ってこない事に気付いて扉を開けた弟が、大きな声を上げて飛び出してきた。 「兄貴はさっさとトイレ入れよ!」 弟に手首を掴まれて部屋に戻ってゆく背中を見ていたら、扉が閉まる直前に彼は振り返って俺を見て、唇の端を上げた。 見りゃわかるだろ、とも、付き合ってなんかいない、とも取れる様な皮肉な笑顔が眼裏に張り付いた。 俺は身体中の細胞がピンク色に染まるような感覚に鳥肌をたてて、それを見送った。
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