悲鳴から始まる1日

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 日常とは判で押したかのように。に変わり映えしない物で。  いつからか、わざわざ「退屈だ」とも考えなくなっていく。  息を吸って吐くように。空腹になれば何かを食べるように。そんな風に“当たり前”に組み込まれ、意識せずとも行えるもので。  そうなった時、人は失念しているのだ。本当の意味で“当たり前”なんてないという事を。その“当たり前”は簡単に崩れ去ってしまうという事を。  オレの場合、日常の崩壊を告げたのは、誰があげたかも分からない悲鳴だった。  違う。そんなあまりに“出来過ぎ”でパニック映画めいたものじゃない。確かにオレの日常はそのあと直ぐに崩壊したけれど、崩壊の宣告はもう少し前。  それも、極々静かに行われていた。  いつもどおり眠い目を擦りながら向かう、学校への通い慣れた道。  10年以上隣を歩いていた幼馴染が今朝はいなかった。  それが、オレに告げられた日常終了のお知らせ。  そうだというのにオレは何て呑気なんだろう。人は何て楽天家なんだろう。  日常がもう跡形もなく崩れている事にオレは気が付かなかった。風邪でもひいたのかな?怪我でもしたのかな?ぽっかり空いた自分の隣を見つめて、そんな風に考える。  それから、少しだけ首を傾げた。でも珍しいな。オレには絶対連絡をしてくれたのに。  ただ、それだけだった。  よっぽど具合が悪いのかとか、アイツだって人間なんだから寝坊したのかもしれないとか。  前者であれば見舞いに行かなきゃ。そんな事を呑気に考えて学校に着いた愚鈍なオレの耳に、その悲鳴は聞こえてきた。  漫画やドラマでよくある、テンプレのような悲鳴に、あろうことか最初オレは女子が虫に悲鳴をあげたのかと思った。  だから続いた言葉は。  オレから思考を奪うのに十分過ぎた。鈍器で力いっぱい殴られたような衝撃を、オレの愚鈍な脳内に直接ぶつけてきた。 「じょ、女子トイレで人が……花乃(はなの)くんが死んでるの……っ」
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